三浦しをん『仏果を得ず』

仏果を得ず

仏果を得ず

 『あやつられ文楽鑑賞』で学習した成果がこの小説なのかと思った。この小説を読む前に『あやつられ文楽鑑賞』を読んで学習しておいた方がいいと思うし、読み終えた後、もう一度『あやつられ文楽鑑賞』が読みたくなる。
 古典芸能である文楽に魅入られちゃって研究所を経て銀大夫の弟子になった健。芸を極めることの厳しさ奥深さ、周囲の人間からさまざまな刺激を受けながら、健は一人前の大夫となるべく成長していく、という青春小説。師匠である銀大夫、健の三味線候補の兎一郎、文楽好き小学生のミラちゃんなど登場人物みなキャラ立っているし、文楽の世界を知らなくてもまるで漫画を読んでいるかのように情景が目の前に浮かんできて、すいすい読める。
 「女殺油地獄」の与兵衛や「仮名手本忠臣蔵」の勘平など担当する役の解釈に苦しみ抜き、やっとの思いで自分の実生活を重ね合わせることによって自分なりの解釈を完成させ見事に役を語りきる様子は、パターンだと判っていても、やっぱり胸が熱くなる。バカみたいにまっすぐでひたむきな健には、心を激しく揺さぶられる。クライマックス、まるで健の義太夫が聴こえるかのよう。ものすごく感動した。
 しをんちゃんのおかげで、少しは文楽への興味が湧いてきたかな?暑苦しいほどに熱い青春ものを描かせると、しをんちゃんて抜群に上手いねえ。楽しかった!