芦原すなお『ユングフラウ』

ユングフラウ

ユングフラウ

 東京創元社から出た本だからミステリかと思ったけど、初出は小説すばるで、恋愛小説だった(ということは「小説オリオン」に「ドーニャ」は、あそこの出版社から出てる雑誌ってことなのか)。ちょっと昔のトレンディドラマみたいだなあと、脳内で勝手にキャスティングしながら、楽しく読んだ(厚木は石×純一しかいないだろう!/笑)。
 ヒロイン翠が担当する小説家梨原(芦原すなおご本人がモデルか?/笑)の書く小説が、登場人物の名前が違うけれどこの『ユングフラウ』のようで、翠に小説内のヒロイン評をさせるなど、ちょっとしたお遊びも面白かった。
 恋も仕事も一生懸命。でも仕事はともかく恋の方はくすんで迷走気味?翠の若さゆえの傲慢さがやや鼻についたり、自分自身が分かってないゆえに感情が空回りしてるところが気の毒だなあと思ったりもしたけど、ちゃんと最後には見失いそうだったぴかぴかの自分を取り戻し、パワー全開で前進していこうとするところが良かった。途中、恋愛絡みのぐだぐだが続いた時にはどうしようかと思ったけど、最後は爽やかに締めくくっていただいて、本当に感謝感謝。それに飄々とした梨原の人柄が反映されているのか、どことなくユーモア漂う語り口も読みやすい。個人的には同僚のさよりちゃんとか親友(?)の真美が、もう一人の翠、鏡に映って劣化した翠自身になっている趣向が面白いと思った。
 どさくさに紛れて、芦原さんご自身の本音も反映されてるんじゃないかと勘ぐりたくなる(笑)。それにしても若いっていいなあ!