三崎亜記『鼓笛隊の襲来』

鼓笛隊の襲来

鼓笛隊の襲来

 いかにもこの作家らしい奇抜なアイデアが光る作品が9編収録された短編集。どの物語もこの世界と全く同じようで、ちょっぴりヘンで歪んでるルールがまかり通る世界が舞台。アイデアは秀逸なもののいまいちその設定が物語に生かしきれていなくて「???」説明不足や物足りなさを感じる作品もあったけど、今まで読んだ三崎作品の中では、一番好きな本になりそう。
 好みだったのは、まるで台風のように鼓笛隊が襲来する世界を舞台にした表題作の「鼓笛隊の襲来」。戦後最大規模の鼓笛隊の襲来が、とある家族にもたらした心の交流がほっこりと温かい(とはいうものの、これじゃ大騒ぎするほどのことなのか疑問だし、これだけでお終いにするには惜しく、もっと話を膨らませて欲しかった)。からっと晴れ渡った青空が沁みる作品で、大好き。あと「彼女の痕跡展」も良かった。ラストシーン、主人公がイメージする情景の物悲しさ、切なさ。透明で静謐な美しさ。喪失の痛みに心打たれた。それは「突起型選択装置」でも一緒。突然主人公の前に現れ一緒に暮らし始めた彼女の背中にはボタンがあった、、、。ボタンを押したらどうなるのか。感傷的で叙情的な物語にお役所仕事の無機質さが映えて、なんとも言えない(笑)。この作品ももうちょっと読みたかったなー。
 その他、生きてる本物の象がすべり台として置かれるばかりか人間と会話もできる設定がユニークな「象さんすべり台のある街」、そういう欠陥なのかよ!な「「欠陥」住宅」が印象に残った。