井口ひろみ『月のころはさらなり』

月のころはさらなり

月のころはさらなり

 宮部みゆきが選考委員長を務めた「第三回新潮エンターテインメント大賞」の受賞作。期待して読んだけど…(汗)。まあ、満月の夜の神秘的で不思議な体験は神々しいほどに美しかったし、さらりとした爽やかな読了感もよかったし、読み心地は良かったかな。
 17歳の悟自身、まったく訳も分からない状態で母親に連れられておんば様の家で数日を過ごすことになる。おんば様の家には悟と同じ年ぐらいの茅という謎の美少女が同居していて、茅を慕い悟を目の敵にする少年真も出入りしている。そして真にも茅にも不思議な能力があって、その力は悟にもあるというのだが、、、。
 読者がまるで悟みたい。まったく訳も分からない状態で物語世界に放り込まれて混乱するものの、少しづつ落着きを取り戻し、取り巻く状況事情が見えてくる。なぜ母は不可解な行動をとるのか。なぜ家に帰りたがらないのか。茅へのほのかな思い、真とのじゃれ合い(?)は読んでいて面白かったけど、何のためにどこへ向かう物語なのかなかなか見えてこないのは、読んでいてちょっと辛かった。途中で「お!そういう物語だったのかっ!」と膝をぽんと打ったけど…あれれれれ????ああ、そういう物語だったのか(汗)。
 最後は上手く綺麗にまとめたなという気がしたけど、思わせぶりだったあの能力の使われ方が不満。勿体ない!次回作に期待したい。