北森鴻『なぜ絵版師に頼まなかったのか』

なぜ絵版師に頼まなかったのか

なぜ絵版師に頼まなかったのか

 5編収録された連作短編集。短編のタイトルが「九マイルは遠すぎる」「羊たちの沈黙」などミステリ作品のパロディになっているのが、目を惹く。
 タイトルからしてクリスティの『なぜエヴァンズに頼まなかったのか』のパロディだし、てっきり明治時代を舞台にしたユーモアミステリかと思ったら、、、ユーモア部分はあるけど、そういう物語ではなくてガッカリした。
 実在する人物が愛嬌たっぷりに物語を横切るさまは面白く、明治という激動の時代のありさま情景や風俗が描かれるさまも興味深かったけど、史実に虚構を織り込んだようで、案外と普通のミステリだし、なんというか…収録された5編ともが伏線で、肝心なクライマックスをまだ読ませてもらってない気がした。
 5編目の「執事たちの沈黙」で明治22年。明治という時代とともに生きる冬馬のこれからが、とても楽しみだ。それにしても市川歌之丞ていいなあ!名前と職業を変えすぎだけど(笑)。