小島てるみ『最後のプルチネッラ』

最後のプルチネッラ (Style‐F)

最後のプルチネッラ (Style‐F)

 次に何読もうかなーで、評判を聞くに気になって気になってたまらなくて、図書館に所蔵されてないもんだから自力で手に入れた、、、割に、3か月ぐらい積んでた気がする小島てるみの『最後のプルチネッラ』を選ぶ。これまた「タイトルのプルチネッラて何?」だったんだけど、へえ。プルチネッラとは“最高の喜劇役者に捧げられるナポリの称号”のことなのか。現代のナポリを舞台にプルチネッラを目指すルカとジェンナーロの2人の少年の物語と、神を笑わせるまで記憶をなくすことなく転生を繰り返さねばならない宿命の“道化”の物語が交互に語られる趣向のファンタジー作品だった。
 現代のナポリ編、プルチネッラを目指す2人の少年のうちの1人であるルカが、演劇の名門の出でかつての天才子役、ジェンナーロがナポリでも治安が悪いスペイン地区に住み、大道芸で日銭を稼ぐ少年と正反対の境遇なのが、まるで「ナポリガラスの仮面」のようで面白い。才能はあるものの、それぞれにそれぞれの事情を抱えている2人。特別公演の「最後のプルチネッラ」の主役を演じるためのワークショップを通じて、ナポリを象徴し2人が目指す道化「プルチネッラ」の謎に迫るんだけど、その様子はまるで役者として人間としての成長を見ているかのようだった。
 もう一つの“転生を繰り返さねばならない道化の物語”は、2人の少年の物語とどう交錯するのか、とても楽しみだった。過去から現代まで、まるでナポリという町の歴史の生き証人のようにずっと見守り続けている道化。おどけた語り口で語られるエピソードは、日本人の私には馴染みがないナポリ史で、知らず知らずのうちにナポリ精神史についてもお勉強した気分に(積み重ねられることになるエピソードの一つ一つがまた重みがあって味があっていいのだ)。
 そして、感動のフィナーレ!勘のいい人なら早々に気づいちゃったんでしょうが、私は半分しか気づかなかったよ!しっかし、そういう趣向だったとは。物語の構成も凝りまくっていて見事だし、登場人物や作品を書いた作者のナポリへの思いがひしひしと伝わってきて、感動で胸が熱くなった。我ながらこんなに素敵な作品だと思わずに読んで、見っけもんだったなーと喜んでたりして。