小島てるみ『ヘルマフロディテの体温』

ヘルマフロディテの体温

ヘルマフロディテの体温

 同じ作者による同じナポリを舞台にした物語。『最後のプルチネッラ』では“劇場の町・ナポリ”が描かれたけど、この作品では“背徳と情熱の町・ナポリ”が描かれる。フェミニエロという女装者、トランスセクシャルなど「女になった男」を総称する言葉がある町ナポリ。表紙の山本タカトのイラストが端的に内容を表していて素敵すぎ。一行目から幻想的で妖しくも官能的な物語に惹き込まれる。
 ある日突然母が男になってから、シルビオの世界は歪み始める。いつしか女装という秘密の愉しみを覚え、女装した自分自身の興奮する一方で、激しく嫌悪するシルビオ。とあることがきっかけで真性半陰陽の大学教授に秘密を知られ、半ば脅されるようにして教授の助手になる。そして教授から出された奇妙な「なぞなぞ」に物語を書いて答えることに。嫌々始めた「フェミニエロ」を巡る遍歴の旅だったのに、いつしか夢中になってのめり込んでいって、、、。
 共通する人物も登場するし(スペイン地区の初代トランスセクシャル、タランティーナ♪)、主人公が結果的に自分自身を見つめ直す成長の物語だということ、その過程で過去から今へ趣向を凝らしたさまざまなエピソードが挿入されることなど『最後のプルチネッラ』に非常に似ている物語ではあるものの、いんやー。妖しさ全開!エロティック全開!綴られる文章も心持ちひんやり温度が低く薫り立つかのようで、耽美好きにはたまりません。好き好き大好き。真性半陰陽の大学教授、女装の街娼、カストラート、両性具有の人魚などを配し、妖しくも心切なくさせる異形の愛の物語を描く。“男性でも女性でもありながら、同時に男性でも女性でもない”両性具有という性。性の揺らぎを見つめる遍歴の旅を通じて、性とは何か、さりげなく問いかける内容にもなっている。
 物語としての完成度では『最後のプルチネッラ』のが上かもしれないけど、作品の雰囲気では断然こちらの作品のが好み。出版社の枠を超えて2冊同時に出版されたそうだけど、ぜひ2冊セットで読むべきだと思う。
 3冊目となる作品でも、いくつもの顔を持つ町ナポリのまた違った魅力を見せてくれるのだろうか。この作者のこれからがとっても楽しみ♪