宇佐美まこと『るんびにの子供』

るんびにの子供 (幽BOOKS)

るんびにの子供 (幽BOOKS)

 第一回「幽」怪談文学賞短編部門大賞を受賞した「るんびにの子供」を含めて、5編収録された短編集。
 あらすじだけ取り出してみると怪談にありがちなものばかりで特に目新しさを感じないのに、語り口の妙なんだろうな。抑えて体温低めの文章からじわじわ滲み出てきて読み手をげんなりさせてくれる人間の嫌らしさおぞましさがもう!たまりません。
 表題作「るんびにの子供」、これもまた「るんびにて何?」状態だったんだけど、お釈迦様が生まれたインドの地名のこととか。作品では主人公が通った幼稚園の名前として使われていて、たぶん「るんびにの子供」とは久美ちゃんのこと。怪談とサスペンスホラーが絶妙に融合していて、最後の一行に鳥肌が立つ思いがした。
 「柘榴の家」は強盗事件を起こして逃亡中の男が、大きな柘榴の木が立っている家に孫になり済まして逃げ込んだものの、、、という話。まるで『遠野物語』を読んだときのような訳の分からない不条理感を感じて、背筋がぞわぞわ。道端に偶然落ちていた手袋を拾ったことから物語の幕が上がる「手袋」、まるで手袋がこの主人公を呼んだかのようで、、、ぞわぞわ。最初からオチが透けて見えてしまうのだが、でもそれでも読ませる「とびだす絵本」は、リリシズム溢れていて怖ろしくも切なく美しい物語だった。甘酸っぱくも切ない初恋の物語としても読めて、なかなかに好み。
 今まで興味関心がなくてスルーしていたのが惜しまれるぐらいの作品集だった。新刊チェックする作家が、一人また増えたわ。