有栖川有栖『妃は船を沈める』

妃は船を沈める

妃は船を沈める

 火村英生シリーズの第八長編ではあるものの、雑誌発表された中編2編を幕間で繋ぎ、長編の体裁にしている。第一部「猿の手」も第二部「残酷な揺り籠」もウィリアム・W・ジェイコブズの怪奇短編「猿の手」が重要なモチーフとして使われ、“猿の手は、願い事を聞いてくれる代わりに、災いをもたらす”という性格からか、作品全体がやるせないもの哀しい雰囲気に包まれているかのようだった。
 とにかく、第一部「猿の手」での火村准教授による短編「猿の手」の新解釈に目ウロコした作品。そう解釈するか!そう解釈しちゃってもいいの?って、ただただ驚愕。そしてその新解釈が事件の真相究明に繋がるところが面白い。
 ただタイトルからも分かるように「妃」の存在が非常に重要になってくるのに、「妃」にファム・ファタールたる魅力がさほど感じられなかったのが惜しかった。
 火村英生の過去が少し明らかにされ、そして新キャラコマチ刑事が登場。彼女が火アリにどう絡んでくるのか、次回作以降が楽しみ。