柳広司『ジョーカー・ゲーム』

ジョーカー・ゲーム

ジョーカー・ゲーム

 面白かった面白かった面白かった!ジャンルとしてはスパイ・ミステリになるのかな?戦時中、日本陸軍内に設立されたスパイ養成機関D機関を巡る連作集であり、どれもD機関がD機関ゆえに成立するミステリでもある。どの話もこちらの予想を軽く裏切るばかりかその斜め上をゆく結末に「参りました。降参です」見事にやられまくり。ああ、ホントにホントに面白かった!!!全てにおいて無駄がないスリル満点、極上のエンターテインメント小説。大満足ですよ!!私が今年読んだミステリの中で現時点では、三津田信三『山魔の如き嗤うもの』、道尾秀介カラスの親指』と並んでビック3だわ。「このミス」2009年版でも上位にランクインするんじゃないかな。
 「ジョーカー・ゲーム」:親日家のアメリカ人技師ジョン・ゴードンにスパイ容疑が浮上した。陸軍が使用している暗号表を盗みとったという。ゴードンは家のどこに隠したのか?憲兵隊が一度捜索して見つからなかった暗号表を見つけ出すことができるのか?
 自身が優秀なスパイだった結城中佐の発案で昭和12年秋に開設された情報勤務要員養成所。スパイ養成所たるD機関設立間もなくの頃のエピソードだ。視野人物となるのは軍の参謀本部からの出向者である軍人佐久間。D機関で養成されるスパイのなんたるかを鮮烈にアピールするエピソードでもある。真相に「あ!なるほどね!」驚きつつ、優秀なスパイだったのが分かりすぎるほど分かる結城中佐の食えなさ加減に脱帽した。役者が何枚も上なことよ。
 「幽霊 ゴースト」:D機関の記念すべき第一期生蒲生のスパイとしての実地というか、手に汗握る活躍を描く。英国総領事アーネスト・グラハムは爆弾テロ計画と関係あるのかないのか、シロなのかクロなのか。テーラー寺島の店員蒲生としてグラハムに接触、探ることになる、、、。

 本物のスパイは幽霊(ゴースト)に近い。  p.73

 と本文中あるように、「幽霊」という言葉がいろいろな含みを持って使われている話。う〜ん。上手いぜ。個人的に結城中佐の出番が少ししかなかったのが残念だったかしらん(おい)。
 「ロビンソン」:D機関出身でロンドンにスパイとして潜入捜査中の伊沢は、極秘機密を英国スパイにうっかり漏らした新米外交官のへまによって、スパイ容疑で英国諜報部に捕まり、ダブルスパイを強要される。伊沢は危機を乗り越え無事脱出できるのか?それともD機関を結城中佐を裏切るのか?結城中佐が伊沢への餞別で贈った『ロビンソン・クルーソーの生涯と不思議な驚くべき冒険』の真意とは?
 「これぞ!スパイ小説!」といいたくなる手に汗握るスリル満点な一編。結城中佐って密にD機関の学生たちに“魔王”て呼ばれてるのね、うふ…ではなくて、一冊の本がこんな風に何通りにも解釈できることに、改めて驚かされた。小道具の使い方が本当に上手い。そして、、、すべての事柄がみな、結城中佐の手の上で転がされてるだけのような気になってくる。結城中佐ファンとしては、彼の過去を知る男英国諜報部マークス中佐の存在に要チェック。いつか結城中佐の過去話が読める日が来るんだろうか。
 「魔都」:物語の舞台は上海。上海に派遣されて3カ月の本間憲兵軍曹がこの話の主人公。上司たる及川憲兵大尉に命じられ、敵の内通者が誰なのか調査に乗り出すことになるのだが、、、。
 珍しくD機関に結城中佐が前面に出てこず、顔がない存在と遠景でしか登場しない。だけど、重要な役割を果たすところはさすがD機関だ。人の心を惑わす魔都上海。上海に取り憑かれた男たちの哀れな末路。上海の持つ妖しい魅力が伝わってきて、ぜひとも映像化していただきたい。
 「XX ダブル・クロス」:日本で、独ソの二重スパイシュナイダーが殺された。彼の死の真相を調べるのは、飛崎。D機関の卒業試験としてシュナイダーが二重スパイかどうか調べ、身柄を押さえようとしていた矢先にシュナイダーに死なれたのだった。自殺か他殺か。飛崎は失態を挽回すべく動くのだか、、、。
 密室状態での死、遺書の存在、遺書に残されたXX(ダブル・クロス“裏切り”)などなど、いかにもの道具立てが揃って、ミステリらしいミステリでゾクゾクした。ここでもタイトルたる「XX」の意味の深さに脱帽。しっかしこのラストは、、、あまりにも苦すぎて苦い。クールが結城中佐が見せた意外な一面に、胸が熱くなった。
 昭和20年の終戦へ向けて、D機関は結城中佐はどんな役割を果たすのか。創設から始まったのだったらその終焉もぜひ見届けたいと思う。という訳で、続編希望!!!それにしても結城中佐の存在感が大きすぎだし素敵すぎ。彼が暗躍するエピソードもいいけど、メインとなる話もぜひ読ませて欲しいな〜♪