道尾秀介『龍神の雨』

龍神の雨

龍神の雨

 個人的に長編道尾作品でのベスト(短編では「悪意の顔」が好き♪)。雨さえ降らなかったら、、、。台風の一夜、二組の血の繋がりのない家族の運命が交錯する。相変わらずミスリードが上手くて終盤の展開に、二転三転する真相には驚かされたけれど、ミステリ的仕掛けよりも、丹念に書き込まれた心理描写が印象に残る。雷と雨の音を聞くたびに「この雨の中、どこかにもう一人の蓮が……」思ってしまいそう。それにしても兄弟っていいなー。圭介がけなげでかわゆすぎる。
とはいうものの、思ってるだけじゃダメ。血の繋がりがない家族はもちろんのこと、血の繋がりのある兄弟といえども言葉に出して相手に気持ちを伝えなければ……に集約されてしまうのがなんとも。よくよく考えると、誰が洗濯していたの?半年間一度も書いた字を見たことがなかったの?ラスト、長かった雨がようやくあがり太陽の陽射しが戻る予感と家族の再生&再スタートの予感が重なり、なかなかにいい読了感ではあるけど、体育着を盗んでる事実は変わらないよね?もう片方の家族も、やっぱり……。でも罪は償うべきだし、まだ若いんだからいくらでもやり直しができるでしょうに。すっきり終わらせず後味の悪さが残るところが、いかにも道尾作品らしい。)