宮下奈都『遠くの声に耳を澄ませて』

遠くの声に耳を澄ませて

遠くの声に耳を澄ませて

 宮下奈都さんの作品は寡作ながらどれも心に沁みて、心の奥にある柔らかい感情を優しく揺さぶってくれるなあと痛感。作品ごとに「ああ」何箇所も、しかも不意打ちのように琴線に触れる箇所があるので、私のように泣き虫な人は要注意かも。
 新潮社の雑誌「旅」で連載していた12編を収録。「旅」がテーマの連作集なのかな?
 表題作である「アンデスの声」など一見不可解に思えるタイトルが、読み終えると見事にすとんと腑に落ちるところもいいんだけど、登場人物それぞれが歩んできた人生が断片から垣間見れて、その生の重みがずっしり感じられるところ、単なる小説の登場人物なのに、それ以上の、まるで近しい人間みたいな親しみをどの人物からも感じられるところが素敵だと思った。作者の腕、でしょうね。 
 ベタかもしれないけど、人生って「旅」ですねえ。しみじみ。行く過程も旅だし、行った先で何を見つけるのか見つけないのかも旅。改めて「旅」について考えさせられる。あー。旅に出たーい!
 読み進めるうちに作品同士がゆるやかに繋がっていることに気づき、あの話を横切った彼女がまたこの話でも!と、繋がり具合を確かめ再会する楽しみも味わえるのだが、特に印象深く残ったのは「うなぎ」の濱岡さんのこと。ほろり。「土鍋」のみのりちゃんも「人気ナンバーワン」の蔵原さんも忘れがたい。