恩田陸『六月の夜と昼のあわいに』

六月の夜と昼のあわいに

六月の夜と昼のあわいに

 いかにも自分好みの1冊を上梓したという感じ。体裁としては「新進画家による絵と、フランス文学者による詩、俳句、短歌と、ざわつく不穏さを秘めた恩田ワールドとの絶妙のコラボレーション」なんでしょうが、恩田さんによる筆が勝った感があって、あまり効果的とは思えず。ただイメージの断片、を掬いあげて文章化する恩田陸の力量に改めて震撼したけれど。
 好みは、不可思議で懐かしい「Y字路の事件」、ちょっとズレた世界で男の子の節句に起こった爽やかでちょっぴり怖ろしい出来事「夜を遡る」、女に恩田さん自身が重なる「Interchange」等。「約束の地」は、映像で見てみたい。よく文章化したなあと感心した一番の実験的意欲作だと思う。「唐草模様」は『いのちのパレード』的かも。
 新境地かどうかはともかく、恩田陸という作家の引出しの多さを、まじまじと見せつけた作品集にはなったんじゃないかな。